芸術資源研究センター

京都市立芸術大学芸術資源研究センター(略称:芸資研,英語表記:Archival Research Center)は,本学の130年を超える歴史において,長年にわたり蓄積?保管されている教育研究の成果や,芸術資料館収蔵品,演奏記録,日本伝統音楽研究センター研究記録?古楽器?SPレコードなどの資料を,単なる記録や保存資料ではなく,新たな芸術創造の糧であり,有用な教育のための資源であると捉えます。
芸資研ではアーカイブ理論の研究と実践を進め,これらの資源や,新たに生まれる資源を体系的に整理し,活用に努めます。
活動状況はホームページなどで公表するとともに,研究成果を発表するシンポジウムやワークショップを開催し,本学の教育研究だけではなく,新たな創造や研究の促進など芸術文化の振興,産業の振興等に寄与することを目指します。
基礎研究
1 アーカイブ理論の研究
アーカイブという言葉は,従来の公文書館から芸術表現の方法まで,様々な意味で用いられています。芸資研では,芸術における広義のアーカイブの可能性を検討し,その理解を深めるために,識者を招いたアーカイブ研究会を随時開催します。
2 芸術資源の調査?収集と活用
芸資研では,本学が所蔵する芸術作品や各種資料を中心とした芸術資源を調査収集し,創造的に活用していきます。日本伝統音楽研究センターや芸術資料館,bob体育客户端_天下足球网-比分|官网等と連携しつつ,学内各所に点在する芸術資源の目録作成を進めると同時に,将来的には京都を中心とした学外の芸術資源を含めて,その創造的な活用を目指します。
3 アーカイブの教育の場での活用
現代の芸術家が制作時に向き合う多様な情報環境は,芸術作品に限定されない資料や情報を含んだアーカイブに例えることができます。現代社会にふさわしい創作能力を育成するために,アーカイブの発想や方法を芸術教育に取り入れることを目指します。
重点研究
芸資研では,アーカイブ全般の基礎研究をもとに,本学の歴史や特色,そして京都という土地性を活かした以下の調査研究を重点研究として行っています。
【進行中のプロジェクト】
オーラル?ヒストリー
芸術関係者に聞き取り調査を行い,口述された内容をオーラル?ヒストリー(口述資料)として記録?保存,研究します。本学ゆかりの作家を中心に,「戦後日本美術」「京都画壇」「フルクサス」に焦点を当てた研究活動を展開しています。
?戦後日本美術のオーラルヒストリー(2014年度から)
戦後の日本美術を担ってきた美術関係者,中でも本学ゆかりの美術家や,京都を舞台に活動してきた美術家,美術批評家,美術館学芸員の活動にスポットをあてます。
プロジェクトリーダー:加治屋 健司(特別招聘研究員)
?京都?近代絵画の記憶(2014年度から)
京都にゆかりのある画家や画家と親交のあった方々に思い出話や絵画への思いを語ってもらい,美術史,産業史,さらには生活史の面から調査研究します。
プロジェクトリーダー:松尾 芳樹(芸術資料館学芸員)
記譜プロジェクト
西洋音楽の記譜法,日本の伝統音楽や民俗芸能を研究し,その解析や再現を進めます。同時に,作品や創作プロセスを含めて記譜法を広く捉え直し,記譜を新たな芸術創造の装置とみなし,表現の多様性を探ります。
?音と身体の記譜研究(2014年度から)*2017年度に「西洋音楽の記譜研究」から名称を変更
プロジェクトリーダー:竹内 直(芸術資源研究センター客員研究員)
?感覚のアーキペラゴ(2014年度から)*2018年度に「未完の記譜法」から名称を変更

プロジェクトリーダー:高橋 悟(美術学部教授)
?伝統音楽の記譜法からの創造(2014年度から)*2018年度に「伝統音楽?芸能の記譜研究」から名称を変更

プロジェクトリーダー:武内 恵美子(日本伝統音楽研究センター准教授)
富本憲吉アーカイブ?辻本勇コレクション(2014年度から)
富本憲吉記念館創設者辻本勇氏からコレクションの寄贈を受け,本学の前身である京都市立美術大学に陶磁器専攻を創設した元学長富本憲吉ゆかりの書簡等の資料を調査研究し,中間成果として書籍「富本憲吉『わが陶器造り』」を2019年に刊行した。
プロジェクトリーダー:森野 彰人(美術学部教授)
総合基礎実技アーカイブ(2014年度から)
本学美術学部の新入生全員が各専攻に分かれる前に受講し,分野を横断する柔軟な基礎力の育成を図る授業「総合基礎実技」の課題と成果を資料化し,芸術教育に新たな展望を開くことを目指します。
プロジェクトリーダー:井上 明彦(美術学部教授)
うつしから読み取る技術的アーカイブ(2015年度から)
※2016年度に「法隆寺金堂壁画における「複写と模写」」から名称を変更
「高細密複写」と違い,「写し」や「模写」はその行為を通じ作品の背景を読み解き,技法,素材を後世へと引き継ぐ大事な役割があります。「写し」「模写」を技術,技法,素材から考察し,そのアーカイブの可能性と汎用性を模索します。
プロジェクトリーダー:彬子女王殿下(客員教授?特別招聘研究員)
美術関連資料のアーカイブ構築と活用(2016年度から)

名画の中の人物や著名人に扮する作品で知られる森村泰昌(1951-)や,仏教美術,京都の文化,また美術作家の作品や展覧会の記録など幅広く撮影し続けた写真家井上隆雄(1940-2016)らの,各種関連資料のアーカイブ構築と活用について実践的に取り組みます。
プロジェクトリーダー:<森村泰昌アーカイブ>加須屋 明子(美術学部教授),<井上隆雄写真資料に基づいたアーカイブの実践研究>山下 晃平(芸術資源研究センター客員研究員)
京都工芸アーカイブ(2019年度から)
少子高齢化による工芸の担い手不足は京都の伝統産業において最も深刻な課題となっています。本プロジェクトでは未来の学生や研究者が,過去を知り制作や研究に活かすことのできる工芸情報をアーカイブすることを目的としています。
プロジェクトリーダー:前﨑 信也(芸術資源研究センター客員研究員)
奥行きの感覚のアーカイブ(2015年度から)
絵画や彫刻をはじめとするさまざまな芸術作品に感じられる「奥行きの感覚」が研究対象です。この感覚の背後には,視覚にとどまらない共通感覚や,複雑な仕方で読み解いている多様な情報や質が存在します。そうしたものを検討?整理,アーカイブしながら「奥行きの感覚」の客観化を目指します。
プロジェクトリーダー:中ハシ克シゲ(美術学部教授)
美術教科書コレクションアーカイブ作成(2015年度から)

本学美術教育研究会が長年にわたり収集した明治時代からの図画工作?美術教科書は図書館に寄贈され,現在1400冊以上のコレクションを形成しています。美術だけでなく教育や社会の歴史を辿るうえでも非常に重要かつ貴重なこれらの教科書は,経年劣化が著しいため,アーカイブ化し,今後のさまざまな活用に向けての道を拓きます。
プロジェクトリーダー:横田 学(美術学部教授)
音楽学部?音楽研究科アナログ演奏記録デジタル?アーカイブ化(2015年度から)
本学には音楽学部創設以来の貴重な演奏記録が保存されていますが,収録当時の記録媒体は寿命が短く,劣化が激しいものがあります。これらのデジタル化を進め,整備活用のために調査を行います。
プロジェクトリーダー:山本 毅(音楽学部教授)
現代美術の保存修復/再制作の事例研究―國府理《水中エンジン》再制作プロジェクトのアーカイブ化(2017年度から)
2014年に急逝した國府理(本学美術研究科 彫刻専攻修了)の《水中エンジン》(2012年)の再制作プロジェクトの記録と関連資料のアーカイブ化を行います。また,動態的な作品における「同一性」「自律性」の問題や,作品がはらむ本質的な批評性と「再制作」の関係など,この再制作のプロセスが提起するさまざまな問いについても検討します。
プロジェクトリーダー:高嶋 慈(芸術資源研究センター非常勤研究員)
京都美術の歴史学– 京都芸大の1950年代 –(2018年度から)
本学の戦後の再出発となった1950年代に焦点をあて,新たに実施された教育カリキュラムについて美術史?社会史?教育史の横断的観点から研究します。
プロジェクトリーダー:菊川 亜騎(芸術資源研究センター客員研究員),深谷 訓子(美術学部准教授)
崇仁小学校をわすれないためにセンター(2018年度から)
京都市崇仁地区では,2023年の芸大移転にともなって,建築物やモノや風景のありようが,急速に変化しています。記憶を呼び起こす物質的な「よすが」と,それによって喚起される個々人の記憶の両方を創造的に記録?保管?継承する方法を,コミュニティ?アーカイブ的な手法を用いながら実践的に研究します。
プロジェクトリーダー:佐藤 知久(芸術資源研究センター准教授)
美術工芸のリソースに関するアーカイブズの試行(2019年度から)
美術工芸品を形作る制作道具やそれを用いた技は,作品のリソースとして極めて重要な存在ですが,保存活用の手立てに十分な仕組みがありません。そこで,公共機関や地域?所有者などと協働しつつ,資料調査のあり方や実物保存および活用の方向性の仕組みの構築を試みます。
プロジェクトリーダー:畑中 英二(美術学部教授)
バシェの音響彫刻プロジェクト(2019年度から)
1970年の大阪万博で制作された17基のバシェの音響彫刻のうち,これまでに修復された6基の音響彫刻の構造と響きを体系的なアーカイブに残し,部材の劣化を防ぐメンテナンスを施すと共に,まだ復元されていない部材についても調査します。またそれらを用いた新たな創造活動の可能性を探っていきます。
プロジェクトリーダー:岡田 加津子(音楽学部教授)
原版と銅版画作品のアーカイブ(2019年度から)
著作権等の問題から通常は廃棄されてしまう銅版画の原版を,技法?素材など関連資料の記録や,刷られた作品とともに保存することで,高度な技術力を必要とする銅版画技法を継承し,実践的な資料として研究し活用します。
プロジェクトリーダー:大西 伸明(美術学部准教授)
絵具に問う(2019年度から)
絵画を彩る絵具は,画家が描いた痕跡である。よって我々は,画家が用いた材料や技法,表現の意図,画家がおかれていた状況などを絵具に問うことができる。本プロジェクトは,絵画からより多くを学ぶ環境を整えることを目的とし,保存修復専攻の研究活動によって得られた絵具に関する調査データのアーカイブを目指す。
プロジェクトリーダー:高林 弘実(美術学部准教授)
タイムベースドメディア作品アーカイブにおける鑑賞性の保存?修復?再創造

芸術資源研究センターで構築したダムタイプ作品《pH》のデジタル?アーカイブと仮想現実(VR)シミュレーターの更なる活用方法に関して研究する。シミュレーター内でのパフォーマンスの再現および情報技術を用いたアーカイビングの技法を探求し,VRによる作品鑑賞を介したアーカイブ閲覧の今日的可能性について検証する。
プロジェクトリーダー:砂山 太一(美術学部講師)
【終了したプロジェクト】
映像アーカイブの実践研究(2015年度~2018年度)
過去を保存し未来へと継承することは,アーカイブに期待される機能の一つです。残されたものの事後の検証?活用に,写真を含む映像が果たす役割や可能性について,実践的な立場で研究に取り組み,ワークショップ等で考察を深めた。
プロジェクトリーダー:林田 新(芸術資源研究センター客員研究員)
?ASILE FLOTTANT 再生~ル?コルビュジエが見た争乱?難民?避難~(2017年度)
ル?コルビュジエがデザインした難民収容船のリノベーションが完成することを機に,「ル?コルビュジエが見た争乱?難民?避難」をテーマとした展覧会とシンポジウムを東京で開催した。また,パリのセーヌ川に係留されている船の内部で現代日本建築家展を行い,出版も行った。
プロジェクトリーダー:辰巳 明久(美術学部教授)
みずのき作品群の保存とアーカイブ作成への協力と作業支援(2017年度~2018年度)
?みずのき美術館(京都府亀岡市)による,同館所蔵作品群の保存状況の改善とアーカイブ作成事業(保存の為の再整理作業,画像撮影,作品記録リスト作成,引っ越し作業等)への協力および作業支援を通じて,所蔵作品群,および「みずのき寮絵画教室」,「みずのき寮絵画クラブ」の実態調査を行った。
プロジェクトリーダー:中原 浩大(美術学部教授)
フルクサスのオーラルヒストリー(2014年度~2018年度)
1960年代から美術,音楽などの各分野のアーティストが分野の枠を越えて展開した国際的な芸術運動「フルクサス」に携わった人々にインタビューし,その基礎資料を作成した。
プロジェクトリーダー:柿沼 敏江(音楽学部名誉教授)
教員紹介
特別招聘研究員
彬子女王
1981年生まれ。立命館大学衣笠総合研究機構客員協力研究員。専門は在外日本美術コレクション研究,文化交流史。 D.Phil.(オックスフォード大学)。主な著書に『文化財の現在?過去?未来』(編著 宮帯出版社 2013),『写しの力 -創造と継承のマトリクス -』(編著 思文閣出版 2013)。
塩見允枝子
1938年生まれ。1961年東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。1964年ニューヨークに渡り,フルクサス(上記参照)に参加。1965年にメールによ るイヴェント「スペイシャル?ポエム」開始。現在も作曲,パフォーマンス,視覚作品の制作など多様な活動を続けている。主な著書に『フルクサスとは何か』 (フィルムアート社 2005年)。
森村泰昌
1951年生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業,同専攻科修了。1985年,ゴッホの自画像に扮するセルフポートレイト写真を制作。以降,今日に至るまで一貫して「自画像的作品」をテーマに作品を作り続け,国内外で活躍している。主な著書に『美術,応答せよ!』(筑摩書房,2014年),『森村泰昌 「全女優」』(二玄社,2010年)。
加治屋健司
1971年生まれ。東京大学 大学院総合文化研究科 准教授。表象文化論?現代美術史。ニューヨーク大学大学院美術研究所博士課程修了。日本美術オーラル?ヒストリー?アーカイヴ 代表。共編著に『From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989: Primary Documents』(Museum of Modern Art, NewYork, 2012),『中原佑介美術批評選集』全12巻(現代企画室+BankART出版,2011?)。